北安曇郡小谷村の山奥に、池と呼ぶには大きくて、湖にしてはやや小さい「風吹大池(かざふきおおいけ)」というものがある。



大上段な題名にしてしまったが、実はそんなにたいしたことはない。
ウルトラマンやウルトラセブンで育った私のような世代には、湖面がピシャッ、ピシャッと光って、今にも怪獣が飛び出してくる、そんな雰囲気が漂っている池に思えただけなのだ。

池のほとりの「風吹山荘」という山小屋のご主人から、コーヒーをいただいた。
小屋のご主人は兵庫県の出身で、北海道でタコ漁をしたこともあるそうだ。
奥さんは福島県の出身、お二人は唐松岳の山小屋で働いていたときに知り合ったそうだ。
その二人が今、小谷村に住んでいる。
人のえにしとは不思議なものだ。

風吹大池は、山道を2時間かけて登らなければならない山奥。主要な山とは離れていることもあり、今回の山旅で出会ったのは、ご主人をふくめてたった7名であった。
でも、ヘビには会った。登りで2回見かけた。もう1回見ればきっといいことがあるだろうと願をかけた。
案の定、下りでヘビと遭遇した。まだら模様で、振ったしっぽから、カタカタカタ・・・と音が出ている。初めて見る、珍しいヘビだった。
どうやら、そんなヘビに出会えたことが、いいこととなってしまった。



下界で30度を超えたこの日、池のまわりではすでにミヤマアキノキリンソウが咲きはじめていた。

今、日本経済新聞で、俳優の山崎努さんの体験記が連載されている。
2作目の映画「地の涯に生きるもの」で、森繁久彌さんと共演した。
舞台は北海道知床。


山崎さんの回想によると、
主役の森繁さんは、監督から映画の中で何か歌ってほしいと頼まれて、
昼食の休憩時間に、サラサラと、名曲「知床旅情」を書きあげてしまったようなのだ。
メロディも即興だ。
あぁ、なんと
ちったあ呻吟艱苦してくれていたのなら、
私のような才能のない人間も、少しは報われたかもしれない。


いろいろ検索して知ったのだが、
歌詞の3番の最後、つまり歌のラストの部分、
「白いカモメよ」の「よ」は、もともとは「を」だったというのだ。
  忘れちゃいやだよ 気まぐれカラスさん
  私を泣かすな 白いカモメ「を」
たった1字の違いだが、歌詞の意味合いはだいぶ異なる。
カラスやカモメへの呼びかけであるものが、
「を」にした場合、
  君(出て行く人) = カラス
  私(残る人)   = カモメ
という構図になる。
手直しは、歌をヒットさせた加藤登紀子さんによるものらしい。
呼びかけであっても、旅の風情は損なわれないし、
旅の思い出の歌として印象に残る。
でも、森繁さんは「を」にこだわったらしい。

映画では、出征する息子(山崎さん)の祝いの宴のシーンで、
漁師の父(森繁さん)が歌うという設定であった。
でも、歌詞の内容は、それにはそぐわない。
創作の背景を知れば、歌の中身は、
映画関係者と地元の人々との、交歓と別れだということに想像がおよぶ。
3番は主客が入れ替わってしまってわかりづらいのだが、
森繁さんは自身を気まぐれカラスになぞらえて、
撮影に協力してくれた地元の人たちに、
感謝の気持ちを伝えたかったのではなかったか。


さる温泉宿で、窓からふと外を見ると、松の枝にカラスがとまっている。
羽づくろいをしながら、ずっとその枝にとどまっている。



しばらくすると移動を開始したが、近くの枝に移る程度。
動作がどうもぎこちない。よく見ると、一回りか二回り体が小さい。
ひょっとすると巣立ったばかりのカラスか。

少し離れたところから「カァー」と聞こえる。
すると目の前のカラスが「かぁー」と返す。
またどこからか「カァー」と聞こえる。
目の前のカラスが「かぁー」と返事する。
そんなことが何回か続いただろうか。
突然、目の前の子どもとおぼしきカラスが羽ばたきを始めた。
と、いきなり黒い影がサァーっと近づいたかと思うと、
一瞬の早業で、口移しにエサを与え、飛び去っていった。
おぉー、やっぱり子ガラスであったか。
まもなくその子ガラスも松林の中に消えていった。

そんな光景を見たせいだろうか、
街中でギャー、ギャー騒いでいるカラスをよく観察してみたら、
どうやら親にエサをねだっているみたいだった。
奇遇にも、鳥たちの子育てをよく見かける今年の春から夏であった。

岩手県といえば、今、偉大な野球人がアメリカで大活躍している。
本当に頼もしいかぎりだ。
岩手では、近代日本文学史上の巨人も二人輩出している。
石川啄木と宮沢賢治。
啄木の方が10歳ほど年上だが、二人とも盛岡市で学生時代の一時期を過ごしている。
朝な夕な、岩手山を眺めていたことだろう。
特に啄木は、このふるさとの山をこよなく愛していた。

20年も前になるだろうか、八幡平に遊んだことがある。
明け方、山中の宿から日の出を見にでかけた。
暁の光の中、岩手山が神々しかった。



それ以来、岩手山は、いつかは登ってみたい山となったのだが、
まあ、いろいろあり、目的を達成できずにきてしまった。
今般、早々に夏本番を迎えたこともあり、満を持して登山を計画した。
が!計画当日は朝から雨。予備日も設けてはいない。
休憩時間を含めて、往復9時間くらいか。
しのつく雨の中、雨中行軍する気力も体力もなく、断念した。

千載一遇のチャンスをみすみす逃してしまう。
そういうことは、人生にままあることと思う。
男女の関係でもよくあるような。私も経験がある。
万感の思いを振り返ることが多くなったこの頃である。

  目の前の 好機を逸す
  雲の湧く 空のかなたに
  思いを放る



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