昆虫少年

不思議な少年に出会った。
東北のさる山の中での出来事だ。
立派な捕虫網を持っている。
なんでもその山の岩場にはえる木に、
珍しい虫が見つかったのだそうだ。
それを探しに来たというのだ。
きけば、さきほど熊2頭に会ったという。
「よくご無事で」

少年とはいったん別れたのだが、
下山時に再会し、一緒に山を下りた。
少年は、高校2年生だという。
夕べ会津高原駅に着いて、夜の国道を5時間歩き、
麓の集落で夜明けを待って、山に入ったそうだ。
「よく、まあ。ご苦労さま。」
残念ながら、目当ての虫は見つからなかった。
でもよほど虫が好きなのだろう。
その少年からいろいろ蘊蓄をきいた。
ゼフィルスという美しいシジミチョウも見せてもらった。
山頂で撮った蝶を鑑定してもらったところ、
「アカタテハ」もしくは「ヒメアカタテハ」とのことだった。

昆虫少年

ズザザザザーーー
後ろで音がしたので振り返ると、
少年は山道を踏みはずし、谷筋へ4~5メートルずり落ちていた。
服装はとみれば、町中を歩くものとほとんど変わらない。
靴も、普通のズックだ。
「よくそのかっこうで。無謀じゃないですか?」
マムシに咬まれたこともあると、人差し指の傷跡を見せてもらった。
「ええ?!大丈夫だったんですか?」
虫を求めて西表島へ一人旅も。
実は、とんでもない冒険少年だったのだ。
「これまで命があっただけでも拾いものでしょ。」

10代の男の子には、ときに物事に熱中して、
ほとんどオタクという状況になることがある。
私も、オタクにはならなかったが、多分にそのような気質を持っていた。
ただ、そのようなのめり込みは、ときに暴挙とも、
不適切とも映る行為に走ることがある。
10代の少年は、危険と隣り合わせだ。

昆虫少年

この山に登り始めたとき、アカゲラのヒナとおぼしき鳥を見つけた。
ピーピー鳴いてはいるが、飛び立つことができない。
茂みに身を隠すところまでを見届けた。
巣からでたばかりのヒナは、うまく羽ばたくこともできず、一番無防備かもしれない。
わたしの出会った少年も、ちょうどそんな感じであった。

先ごろ読み終えた『だからあれほど言ったのに』という本で、
著者の内田樹さんは、
子どもたちを「イノセントな状態」で世の中に送り出すことを主張されている。
「イノセントな状態」とは、
子どもたちのうちにある「野生のもの」「聖なるもの」が毀損されることがない状態だという。
まさしく彼はイノセントな少年であり、どうかそのままいってほしいと願わずにはいられない。

下山してから、さすがに彼をさらに5時間歩かせるわけにもいかず、
会津高原駅まで送ってやった。
駅でソフトクリームをおごってやったのだが、
「アイスクリームを食べるのは何年かぶりだ」だって。
う~ん、やはりこのままイノセントでいってほしい。

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